EN 日本語
← アーカイブに戻る

MOIC

投下資本倍率 · 2026年2月8日

要約

MOICは「お金を何倍にしたか」を示す指標。100万円投資して300万円になったら3倍(3x MOIC)。シンプルで強力だが、時間を無視するという弱点がある。

1
貯金箱のたとえ
小学生向け

魔法の貯金箱に1,000円を入れたとしよう。数年後に開けたら、なんと3,000円になっていた!

MOICは「お金が何倍になったか」を聞いているだけ。

1,000円入れて、3,000円になった。3倍だね。だからMOICは3倍(3x)。

もし5,000円になったら?5倍。1,000円しか戻ってこなかったら?1倍(元本のまま)。500円しか戻ってこなかったら?0.5倍(損した)。

つまり「1円渡して、何円戻ってきた?」という質問と同じだよ。

2
VCの成績表
高校生向け

MOICは「Multiple on Invested Capital」の略で、日本語では「投下資本倍率」。ベンチャーキャピタル(VC)やプライベートエクイティ(PE)で最も重要な指標のひとつ。

投資家がスタートアップに出資する時、シンプルに「お金が何倍になったか」を測りたい。それがMOIC。

MOIC = 戻ってきたお金 ÷ 投資したお金
具体例

VCファンドがスタートアップに5億円投資。数年後、そのスタートアップが買収されてファンドに25億円が戻ってきた。

MOIC = 25億円 ÷ 5億円 = 5.0x

なぜ重要か:LP(ファンドにお金を出す人たち)はMOICでファンドを比較する。3倍返すファンドは2倍のファンドより良い—少なくとも紙の上では。

「良い」の基準:VCでは、ファンド全体で3倍が優秀とされる。個別案件では、0倍(全損)から100倍以上(UberやAirbnbへの初期投資など)まで幅がある。

3
MOIC vs. IRR — 時間の問題
大学生向け

MOICには弱点がある:時間を無視すること。

2つの投資を比べてみよう:

投資A

1億円投資 → 3年後に3億円回収 → MOIC = 3.0x

投資B

1億円投資 → 10年後に3億円回収 → MOIC = 3.0x

同じMOICだけど、投資Aの方が明らかに良い—早くお金が戻ってきて、再投資できるから。

だから投資家はIRR(内部収益率)も追跡する。これは時間を考慮した年率リターン。

投資A: 3年で3.0x ≈ 年率44%のIRR
投資B: 10年で3.0x ≈ 年率12%のIRR

実現 vs. 未実現MOIC:

  • 実現MOIC — 実際に現金化されたイグジットに基づく(確定したリターン)
  • 未実現MOIC — まだ売却していない企業の評価額を含む(含み益)
  • トータルMOIC — 実現 + 未実現(ファンドが通常報告する数字)

グロス vs. ネットMOIC:グロスは手数料控除前、ネットは管理報酬とキャリーを引いた後のLP手取り。3.0xグロスは約2.3xネットになることも。

4
仕組みと操作の手口
大学院生向け

実務でのMOIC計算:

MOIC = (分配金 + 残存価値) ÷ 払込資本

別の表現:DPI + RVPI。DPIは「分配金÷払込資本」、RVPIは「残存価値÷払込資本」。

評価問題:未実現MOICはポートフォリオの評価方法次第。非上場企業には株価がないので、GPが「公正価値」を推定する。これが「楽観的」になる余地を生む。

よくあるMOIC操作のテクニック:

  • サブスクリプション・ライン(キャピタルコールを遅らせる信用枠):LPからの資金拠出を遅らせることで、IRRを押し上げ、初期MOIC報告を良く見せる
  • 強気な評価:特に次のファンドレイズ前に、最も高い正当化可能な評価額でマークする
  • コンティニュエーションファンド:会社を売却せず、GPが設定した評価額で新しいビークルに移管し、市場テストされていない「イグジット」を計上

Jカーブの現実:若いファンドは通常、低いまたはマイナスのMOICを示す。資本を投下したが企業がまだ成熟していないため。MOICは時間とともにイグジットで改善する—ビンテージ年の比較が難しい理由。

ベンチマーク(VCファンド):

  • 上位四分位:2.5x以上のネットMOIC
  • 中央値:1.5-2.0xのネットMOIC
  • 下位四分位:1.5x未満(しばしば1.0x未満)

ベンチマークはビンテージ年で変動する—2010-2012年ビンテージは素晴らしく見えた、2021年ビンテージは苦戦中。

5
未解決の問題
専門家向け

分母問題の大論争:公開市場が下落すると、機関投資家はプライベートマーケットへのオーバーアロケーション状態になる(「デノミネーター効果」)。これは本来、売却を強いるはずだが、非流動性のため報告MOICは高いまま。一方、真の清算価値は低いかもしれない。マークが陳腐化している時、LPはMOICをどう考えるべきか?

GPレッド・セカンダリーとMOIC操作:コンティニュエーションビークルの急増は根本的な問題を提起する。GPが会社を...自分自身(新ファンド)に、自分で決めた価格で、その価格でロールするかキャッシュアウトするかをLPに選ばせて売却するなら—その結果のMOICは意味があるのか?正当な価格発見だと主張する人もいれば、「自分の宿題を自分で採点している」と批判する人もいる。

NAVローンの歪み:ファンドはますますポートフォリオNAVを担保に借入し、分配に充てている。これは実際のイグジットなしに現金リターンを生み出し(DPI押し上げ)、MOICを「実現」に見せる。しかしレバレッジはリスクを追加する—マークが下がればマージンコールの可能性も。

IRR/MOIC乖離問題:サブスクリプションラインは不条理なシナリオを生む:高IRR(資金が「入っていた」期間が短いため)だが控えめなMOIC。どちらがより重要か?業界の意見は分かれている。一部のLPは「ライン抜きIRR」報告を要求し始めている。

クロスサイクル比較可能性:2012-2022年(ゼロ金利、マルチプル拡大)の3倍MOICは、2022-2032年(高金利、圧縮)の3倍と同じではない。MOICをリスク調整すべきか?何に対して?公開株式?リスクフリーレート?コンセンサスはない。

専門家の議論:

  • MOICに資本の機会費用を含めるべきか?
  • DPI(現金リターン)だけが「本物」の指標で、未実現MOICは無関係か?
  • 異なるリスクプロファイルを持つ資産クラス間でMOICをどう比較するか?
  • (公開企業の会計基準のような)標準化されたMOIC報告要件があるべきか?

新たな見解:洗練されたLPは報告MOICを一つのデータポイントとして扱い、絶対視しない。未実現マークをストレステストし、コンティニュエーションファンドの「イグジット」を割り引き、成熟ファンドではDPIに注目する。指標が壊れているわけではない—しかし、ほとんどの報告が提供しないコンテキストが必要。

参考文献